潜伏期間とは何か

感染症において、「潜伏期間」というと
「病原体が体内に侵入した後、一定程度数が増えるまでの期間」とか、
あるいはざっくりと、「病原体が体の中で暴れだすまでの期間」
というようなイメージを持っている方は多いのではなかろうか。


これが全くの誤りというわけではないが、
潜伏期間とは「病原体が感染してから症状が出るまでの期間」
ととらえる方が正確だ。


このことは、まさに今猛威を奮っている
いわゆる新型コロナウイルスの症例を見るとわかりやすい。


「症状が出る(発症する)」ということはすなわち
免疫システムが動き出して病原体との戦闘を始めた、ということを意味する。
これが始まらなければ、熱も出ないし咳も出ない。痛みもない。


一般的に言えば、病原体の体内での増殖が遅い、あるいは活動が鈍い場合
免疫システムの動きものんびりで、症状が出るまでの時間は長くなる。
逆に増殖が速く、組織への侵襲が活発であれば、
免疫システムも仕事を急がなくてはならないので、症状が出るまでの時間も短い。


新型コロナウイルスの症例では、潜伏期間の長短が人によって幅があり、
平均して例えばインフルエンザなどより長い。
そして、発症してから急激に重篤化するという症例が多く認められる。
このことから、ウイルスが体内でかなり増殖して
身体の組織もウイルスの侵襲によって障害を受けていて
通常ならとっくにウイルスとの戦いを始めなくてはならない段階にあっても
何らかの理由で免疫システムが上手く動き出せないでいる場合がある
ということが推測できる。


つまり、「症状が出ない」という状態には
「症状を出すまでもなくその前の段階で、そもそも感染すらさせない、
あるいは感染しても病原体の増殖を抑制するくらいの力を身体が持っている」
という場合と
「病原体が感染して身体の中で暴れていても、
免疫システムが身体を守るための戦いを始める力すら無い」という場合の
ざっくりいうと二通りが考えられるわけである。


なんでこんなことを長々と説明したかと言えば、
「発症する」とか「炎症が起こる」という現象が
全くの「悪いこと」「良くないこと」であるととらえている人がいたら
その概念をちょっと変えて欲しいからである。

 

もちろん、症状が重篤であればそれを薬などで抑えることは必要だ。
そういう治療法があることは大変頼もしいことである。


ただ、熱や咳や痛みなどの症状が出る、ということは
「免疫システムが病原体との戦いを始めた結果だ」
という側面をわかって欲しいのである。


勝つか負けるかはわからない。
病原体より弱ければ負けるから、医療に手伝ってもらう必要がある時もある。
だけどともかく、何か病気になって症状が出た時は、
あなたの身体は病原体の侵入を許してしまったかもしれないが、
そして症状が出たことによってしんどい思いをするかもしれないが、

少なくともあなたの身体は、何もせずにやられっぱなしではなく
生きようとして、その病原体との戦いを始めたのだという、
そのポジティブな側面にもぜひ焦点を当てて欲しいと思うのだ。

 

 そして同時に、いわゆる新型コロナウイルス感染症
その免疫システムの動作そのものを阻害するような性質を
持っている可能性があるという点で
通常の風邪や季節性インフルエンザなどとは質的にかなり異なっている
ということを認識したうえで、正しく危機感を持つ必要がある。